話が終わり、二人は早速水着を選び(と言ってもごくオーソドックスなトランクスタイプだが)、更衣室で着替え始める。

「さすがに誰もいないな」

「ああ、このスピードだと女性陣も皆着替え終わったかもな」

「・・・」

その時何の前触れも無く無言になる士郎。

「??どうした?」

「いや・・・そう言えばそうなんだよな・・・皆泳ぐんだから・・・」

「・・・お前完全に失念してただろ」

「・・・はい」

そんな会話をしながら、水着に着替え終え、士郎は両手にグローブを嵌め直し、プールサイドに向かう。

「やっぱり嵌めるんだな」

「そりゃな」

いくら見知った人間ばかりでもあまり見せられたものではない。

そう士郎は判断した。

「よう、女共よりは早かったな」

プールサイドに着いた二人を何時もの口調で出迎えたのはセタンタ。

ある意味予想通りと言うか、ブーメランタイプの水着を履いていた。

「間も無く着替え終えるだろう。現に七夜の関係者は着替え終えている」

そういった宗一郎は志貴達と同じくトランクスタイプの水着にパーカーを羽織っている。

どうもあまり泳ぐ気はなさそうだ。

「ああ、向こうで自分達の夫の到着を心待ちにしている。早く行かれるがよい」

ヘラクレスもセタンタと同じくブーメランタイプを履いている。

ヘラクレスの指差す方向には

「うわあ・・・」

それぞれ色とりどりの水着を着た『七夫人』と朱鷺恵が戯れていた。

「あっやっと来たんだ志貴〜!!」

夫に気付いたのか、アルクェイドを先頭に志貴に駆け寄ってくる。

「あれ?皆以前の水着でよかったのか?」

そんな妻達を見て志貴は不思議そうに尋ねる。

「??ああこれ?以前のとは違うわよ。近い形のものがあったから、それを貰っただけよ」

「大体もうあれサイズ合わないよ志貴ちゃん」

「そうです。私達も成長したんですから」

よくよく見れば、確かにかつて海水浴に行った時の物とは細かい所が少し形が違ったり、刺繍が施されていたりと違っている。

「私はもう歳だし、大人しめのものを選んだけど志貴君どう?」

そういう朱鷺恵の水着は淡いピンクの色彩で、カラーディングされたワンピースタイプの水着。

それほど露出している訳でもないが朱鷺恵の様に自然に色気を出しているタイプの女性ならこれで充分だった。

「ええ良くお似合いですよ姉さん・・・そういやレンは?」

不意にレンがいない事に気付いた志貴が質問する。

「そう言えばいないわね。さっきまでいたのに」

「本当。どうしたんだろ?」

「志貴、レンでしたらレイに引っ張られて更衣室に戻りました。志貴達と入れ違いだった筈です」

「レイに?シオンさん、レイの奴何か言っていましたか?」

不吉な予感を感じた士郎は、やや表情をこわばらせてシオンに尋ねる。

「何か言っていたのですが、小声過ぎて聞こえませんでした。ただ、レンもレイの話に頷いて戻りましたから強制という訳でもないと思います」

「そっか・・・」

一体レイはレンに何を吹き込んだのだろうか?

そんな事を考えていた士郎に今度はアルクェイド達がきょとんとした表情で尋ねる。

「あれ?士郎グローブ取らないの?」

「え?ああ・・・これですか?知人ばかりでもあまり人に見せるのもどうかと思うんで」

そう言って笑いながらグローブを嵌めた手をひらひらさせる。

「でもさ士郎君、ここに士郎君の手の事に嫌悪感示す人いないじゃない?」

さつきの言葉に思わず顔を見合わせる。

「そういや・・・」

「そうだった・・・だけどな」

そこに更に

「それに、今回の事は志貴ちゃんと衛宮様の慰労の為だと聞いているから、そうやって衛宮様が遠慮していると私達も楽しめないと思うけど」

「うーーん・・・確かに」

翡翠の意見に頷く。

「でしょ?だからこんなグローブは・・・ぽいぽいっと」

そう言うやアルトルージュが素早くグローブを士郎の手から脱がす。

そして絶妙のコントロールでデッキに向かい投げる。

「んじゃ・・・今日は思う存分楽しむとするか」

「ああ」

とそこへ

「おやシロウ?速かったですね」

後ろから鈴のような澄んだ声が聞こえてきた。

「ああアルトリア、まあ直ぐ着替えられ・・・る・・・から・・・」

振り向いた士郎はその姿を見た瞬間真っ白になった。

判っていた筈だった。

ここでは女性陣は皆水着に着替えると言う事は。

だが、その前知識があったとしてもまさしく無力だった。

自分の目の前に立ったアルトリアには。

アルトリアの事だから大人しめのワンピースタイプでも着るかと思いきや、意外にもビキニタイプで、これでもかとばかりに、白磁のような素肌を見せつけている。

それでも彼女が白を選んだのは当然といえば当然だろうが。

「どうでしょうか?初めて水着と言う物を着たので似合っているのかどうか判りませんが」

「いや、似合う似合わないから言えば、文句の付けようも無く似合っている」

これで似合わないと言うのなら、この世の全ての女性はどんな水着を着ても似合わない事になる。

「そうですか・・・似合っているのか不安でしたが、シロウが似合っていると言うのでしたら間違いありません」

そう言ってにっこりと微笑む。

「そ、そうか・・・そう言えば他の皆は?まだ着替えているのか?」

緊張を解きほぐす為に一呼吸置いてから、士郎は尋ねる。

「そろそろだと思いますが・・・」

「他の子ならもう直ぐ来るわよ坊や」

そんな声と共に現れたのはメディアだった。

彼女のそれは濃紺に細かい箇所に鮮やかな刺繍の施されたワンピースタイプ。

「へえ、結構大胆な水着着て葛木先生を見せるかと思ったが、意外に控えめだな」

「それはそうよ。私の肌は宗一郎様にだけしか見せる気は無いもの」

そう言って宗一郎に駆け寄るメディア。

「あ〜なるほどな・・・」

さすがは宗一郎一筋なだけある。

そう感心していると

「お待たせしましたシロウ」

落ち着きのある声が士郎の近くから発せられた。

振り向くとその声の主・・・メドゥーサが立っていた。

「・・・・・・あ、ああ・・・」

再度絶句する士郎。

アルトリアのそれとは対照的な落ち着いた黒のビキニ、だが、それが恐ろしいほどのインパクトを与えるのはひとえにその中身。

その魅惑的なプロポーションを水着程度の布面積だけで隠すのはむしろ反則、犯罪の領域ではないかと思わせるほど。

「?どうしましたか?シロウ、痴呆の如く立ちすくんで。それにアルトリアも」

見れば確かにアルトリアも眼を泳がせて硬直している。

「い、いえ・・・何と言いますか・・・改めて彼我の戦力差を思い知らされた所です・・・ええ敗北を認めます、メドゥーサ。私も・・・せめてもう少し位、胸があれば・・・」

最後の部分は恐ろしいほど小声で誰の耳にも入る事はなかった。

だが、それに対してメドゥーサはと言えば決して勝ち誇っていなかった。

いやそれ所かアルトリア以上に落胆した面持ちで、

「何故敗北を認めるのですかアルトリア?敗北を認めるのはむしろ私の方です。アルトリア、貴女は自分の素晴らしさを少しも理解していない。私の方こそせめて百分の一でも良いから貴女の可愛らしさがほしかった・・・そうすれば姉様達とも・・・」

なにやらお互いのコンプレックスを一撃されたようだった。

「そう言えばメドゥーサ、眼は?魔眼の効果は出ていない様だけど」

ひとまず自分を落ち着けた所で士郎はふと感じた疑問を尋ねてみる。

「ああこれですか?心配には及びません。私の眼に封印をかけたのです。後は眼鏡を常備していれば心配はありません」

「なるほどな・・・」

感心している士郎の耳に

「バゼット!遅かったな!」

「すいませんセタンタ。どうも水着と言うものを付けるのに慣れていなくて・・・」

「そういう割には似合ってるな。どれどれ・・・」

「何処を見ようとしているんですか!!貴方は!」

セタンタとバゼットの夫婦漫才の声が聞こえてきた。

声の方向を見るとセタンタがバゼットにどつかれている最中だった。

おそらく上か下か、若しくは両方を覗こうとしてバゼットの鉄拳制裁を受けているのだろう。

そのバゼットは自分の髪と同じ鳶色のビキニ。

スタイルも均整が取れていて、決して『七夫人』やメドゥーサに引けを取らないスタイルを誇っている。

一見するとファッションモデルと見間違えられてもおかしくない。

いつもスーツ姿でなまじ女性らしい服装をしないだけ余計それが際だっていた。

「はぁ〜バゼット、スタイル良かったんだな・・・」

ポツリと呟く士郎の耳に地獄の底から響くようなおどろおどろしい声が注ぎ込まれる。

「あら?どうしたのかしら士郎?そんなでれでれと鼻の下伸ばして」

その瞬間背筋を伸ばす。

辺りは常夏にも関わらず極寒の地に叩き込まれた錯覚を覚えた。

後ろを振り向きたくても関節が凝固したかのようにピクリとも動かない。

「あら私の方は見ないの?」

それでも背後の声に半ば押し出されるようにようやく首を回転させる。

と、そこには、目の覚めるような赤のビキニを着た凛が堂々と立っていた。

「・・・」

「で、感想は?」

無言になった士郎にじと眼で凛が感想を求めてくる。

「らしい・・・ぐうの音の出ないほど凛らしい」

立ち振る舞い、姿勢、水着まで全て凛らしいと士郎は言下で称えた。

その士郎の感想に当然といわんばかりに笑みを浮かべてから凛は溜息をついた。

「まあこれ位堂々としてなきゃ埋もれちゃうから」

「埋もれる?」

「そうよ。大体辺りを見渡してみなさいよ。ここまで色とりどりでそれぞれにアピールしてるのよ。おまけに志貴の奥さん達もいるし、少しでも自分を目立たせておかないと忘れられるのが眼に見えてるじゃないの」

そこに、計ったようなタイミングで

「そうですね。ただでさえでも先輩のスタイルは、ここにいるメンバーでは下位クラスですから忘れられたとしても不思議ではありませんね」

涼やかなそして冷ややかな毒すら撒き散らした声がとんでもない台詞を放つ。

そしてそんな台詞を言い放つ該当人物など一人しか思い浮かばない。

その声の先には予想通りカレンがいた。

「あんた言いたい放題言うじゃないの、大体あんただって似たり寄ったりでしょうが!」

確かにカレンと凛、二人のスタイルはほぼ同じに思える。

だが、士郎の関心は水着や二人のスタイルよりも・・・

「ところでカレン」

「何でしょうか?衛宮士郎、欲情しましたか?」

「いや、そうじゃなくて・・・」

カレンは自分の髪と同じ銀に近いグレーのビキニを士郎達が見る限り、上だけつけていた。

では下はといえば・・・無論履いていないのではない。

「何で下には聖骸布巻いている?」

そう、カレンは腰布の要領で常備している聖骸布を巻き付けていた。

「あら、ご心配なく、こつは掴んでいるのでちょっとやそっとの水流で解けたりしません」

「いや俺が言いたいのはそうじゃなくて・・・カレンお前下はつけているのか?」

やや表情を引き攣らせて出来ればしたくない類の質問をする。

幸い、巻かれた聖骸布の長さは一般的なスカートと同じ膝辺りまでなので簡単には中を覗く事は出来ないが、それでも念には念を入れて確認を取る。

それに即座にニヤリと笑いカレンは待っていましたとばかり質問を返す。

「あら?気になりますか?では確認してみますか?」

「いや止めておく。言っておくが絶対に見ないからな」

それに僅かなタイムラグも無く士郎は拒否する。

見れば絶対に後悔する羽目になるだろうと直感したのだ。

「全く・・・面白みがありませんね・・・この甲斐性無しに根性無しの駄犬」

小声で罵声を浴びせるカレンをひたすら無視する。

気にしていては身が持たない。

「て言うか、私の事をとやかく言っていたけど、あんただってそんなものを巻いて士郎の気を引こうとしてるじゃないの」

「失礼ですね。これが私の水着であるだけです」

「はいはい、まあそう言う事にしておくわね。まあ、自分に自信が無い奴に限ってそういう風に外見の奇抜さでフォローしようとするからね。大体スタイルなんて魅力の一部よ、一部。人それぞれに魅力があるん・・・だ・・・か・・・ら・・・」

カレンに対して饒舌に喋っていた凛の言葉が途切れ、その表情が凍てつく。

「??」

その表情の激変振りに首を傾げる士郎達。

だが、その理由が直ぐに駆け寄ってきた。

「せんぱ〜い!!姉さ〜ん!お待たせしました!!」

そう言って桜が駆け寄ってきた。

桜は淡いピンクのビキニタイプ。

特に際立った特徴は無い。

だが、特徴を挙げるのならば、水着ではなくその中身の方だった。

メドゥーサ、メディア、バゼットはまだ許容できる。

あっちは年上だし、そのうち前者二名は人間ではないのだからスタイルが上でも認める事が出来る。

だが、目の前にいるのは自分達より年下。

その上、凛とは間違いなく血を分けた姉妹。

その二人にどうしてここまでの差が出るのか逆に不思議である。

「あれ?姉さんどうしたんですか?」

桜は心底不思議そうに凍りついた凛に声をかける。

「どうしたも・・・こうしたも・・・桜・・・」

「はい姉さん」

「あんた・・・もしかしなくても・・・更に増えた?」

「!!」

今度は桜が凍り付いた。

どうも主語の認識に差があるようだ。

だが、それを補う者も当然いる。

「サクラ気にする事はありません。リンはサクラの胸囲が更に増え自分との差が広がった事に恐れ戦き震えているだけです」

メドゥーサが的確に凛が意図的に抜いた主語を解説し更にはご丁寧に凛の心情すらも暴露した。

「あ、何だそうだったんですか?でも気にする事なんてありませんよ姉さん。スタイルなんて人の魅力の一部にしか過ぎませんから。人それぞれに素晴らしい魅力があるんです。姉さんだってその貧相・・・いえいえ、スレンダーなスタイルも充分魅力的ですよ」

自分の忠臣の言葉に一転して満面の笑みを浮かべ、桜は胸を張って姉が言おうとした事を自信満々に言い放った。

後半にさりげなく黒い事を言って。

「ううう・・・桜ぁ!!後で見ていなさいよ!!」

半泣きで撤退する凛。

「やったぁ!!姉さんに初勝利!!」

「はいそれもぐうの音も出ないほどの完全勝利、さすがはサクラです」

満面の笑みを浮かべる桜に我が事の様に喜び褒め称えるメドゥーサ。

「あ〜桜、一応凛も悪気あった訳じゃないんだしな・・・」

とりあえず敗走する凛がいたたまれなくなり一応の助け舟を出す士郎だったが、それに対して

「先輩何を言っているんですか?ここではバストサイズがすなわち戦力差です!弱者は強者の為に道を譲るこれが鉄則なんです!」

世の絶対真理を解く教祖のように断言する桜にそれを拍手で賛同する狂信者。

「あら?良いのそんな事を言って」

そんな桜に別の意味で満面の笑みを浮かべカレンが尋ねる。

「何がですか?姉さんといい勝負のカレンさん?」

そんなカレンに勝ち誇った笑みで言い放つ桜だったが、意外な所から声が上がった。

「サクラ、今回はそのシスターの言うとおりです。その考えは危険です。力が全てと言うならばその言葉は必ず己自身に跳ね返り、更なる力の前に敗れ去ります。今からでも遅くはありません。前言を撤回しジュースの自棄飲みに興じているリンに手を差し伸べるべきです」

極めて珍しい事にアルトリアがカレンに加勢し焦った表情で告げる。

「あら弱者が何を言ってもそれは所詮負け犬の遠吠えですよ。今日のここは私の独壇場なんですから!!」

アルトリアの必死の説得も虚しく更に力強く断言する桜だったが、その台詞を言い切った瞬間その表情のままで凍り付いた。

それは先程の凛のフリーズ状態を桜が変わって演じているようにも見えた。

そうなると先程の桜に変わるのは??

そんな疑問を持ちつつ士郎がその視線を変えるとそこには・・・

「・・・アルトリア・・・知っていたのか?」

「はい・・・彼女に水着を着るのを手伝って貰いましたので」

「更に言えば私はその隣にいましたので」

その視線の先には二人。

一人は癖の無い銀髪を背中の中間部分まで伸ばし鮮やかなグリーンを基調とした、ワンピースタイプの水着を着た女性。

顔立ちからしてセラなのは間違いない。

こちらはスタイル自体は凛やカレンとほぼ同じである。

だが、桜のかちこちに凍りついた視線はもう一方に凝視されていた。

セラより癖のある銀髪を肩口ほどで揃え紫のビキニをつけた人物・・・そのサイズは桜をも・・・いや下手をするとメドゥーサをも・・・凌駕していた。

誰かなど問うまでも無い。

消去法でリーゼリットだ。

「ありゃ大人の体形になったアルトルージュにも匹敵するな」

しみじみと志貴が呟く。

「ああ〜あの状態のアルトルージュさんとか・・・ていうか志貴、良いのか?こっちばかり見ていて。奥さん達妬くぞ」

「まあそうなんだがな・・・これだけ大量の花があると己の意思に関係なく見ざるを得んだろう」

「それについては男として同意する」

そんな男同士の会話を尻目に

「アルトリアさんの言うとおりでした・・・力に驕る者は更なる強大な力に敗れる・・・これほど骨身に・・・いえ・・・魂にまで刻まれる教訓は初めてです・・・」

「そうよ・・・桜分かった?人間バランスこそ大事なのよバランスが。一つに囚われたらいけないわよ」

「はい・・・姉さん私なんて世間知らずも良い所でした・・・」

プールの片隅で敗北者が互いの傷を慰め合っていた。

とそこで士郎はある事に気付いた。

「あれ?セラ、リズ、イリヤはどうした?まだ着替え中か?」

現れたのはセラとリズだけで、イリヤの姿は無い。

「くっ・・・だからリーゼリットと呼びなさいと何度言えば・・・それよりもリーゼリットお嬢様の着替えはどうしたのです!終わったと聞いていますが」

「イリヤならさっき更衣室に戻った」

その答えにふと嫌な予感がする。

「戻った?リズ、すまないけどその時一人だった?」

「ううん、レンとレイも一緒」

更にいやな予感が膨れ上がった。

「レイがレンちゃんとイリヤを連れて行った・・・」

何をやらかすかわからない。

「ちょっと様子見てくる」

すぐさま士郎が更衣室に向かおうとする。

勿論中に入るわけではない。

入り口から様子を見るだけだったが、既に遅かった。

踵を返そうとした直前、

「シ〜ロ〜ウっ」

「ごっ主人様っ」

「・・・マスター」

聞き覚えのある声が背後から聞こえ士郎の背中に二人分の重みを感じ、志貴は自分に寄り添う気配を察した。

「ああレン戻ってきたのか。それよりもどうし・・・」

志貴の台詞が途中でストップした。

それと同様に士郎もレイとイリヤの姿を見た瞬間硬直した。

それが波及したかのように他の面々も言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。

その状況を打破したのはセラの悲鳴だった。

き・・・きゃああああああああああああああああああああああ!!!お、おおおおお・・・お嬢様!な、なんとはしたない!!

「イリヤ大胆」

「・・・そうきましたか・・・やりますね・・・」

セラが卒倒する位驚き、リーゼリットが純粋に感心しカレンは忌々しそうに舌打ちをする。

イリヤ、レイ、レン、この三人の水着は・・・一言で言うならば・・・紐だった。

詳しい描写は控えさせてもらうが、この一言だけでどの様な物をこの三人がつけているのか察してもらいたい。

「れ、レイ!!お前なんつーもんを二人に着させる!!」

ぶちきれた士郎が真犯人を詰問する。

「あらご主人様こういうの好きじゃなくて?」

悪びれる事無く嘯くレイ。

「好き嫌い以前に刺激強すぎるわ!!とにかくレイ!イリヤ!二人とも着替え直し!!」

「「え〜っ」」

「え〜じゃない!!」

その隣では志貴もレンを叱り付けていた。

「レン!お前も着替え直して来なさい!」

「・・・(しょぼん)」

志貴の叱責にしょんぼりしながらそれでも指示に従い着替え始めた・・・この場所で。

「違う!!ここで着替えるな!更衣室で着替えて来なさい!!」

大慌てでレンを引き止めて更衣室に連れて行く志貴。

その後を追いレイとイリヤを半ば引き摺る様に更衣室に連行する士郎。

そんなすったもんだの末ようやくレイ達三人を着替えさせる事に成功したのだが・・・

「って!桜!何に着替えようとしている!何処からそれを持ってきた!お前が着たら犯罪になる!止めろ!」

「放して下さい!先輩!これしか、これしか逆転の手が無いんです!!」

「おい、ちょっと待て!全員揃って何処に行こうとしてる!って朱鷺恵姉さんまで!!」

プールサイドでも大混乱が巻き起こっていた。









数分後、ようやく事態を収拾させた(大混乱の元凶である危険物を速やかに処分する事で)志貴と士郎の下に普通の水着に着替え直したレン、レイ、イリヤがやって来た。

イリヤは桜のそれより濃いピンクのビキニタイプ、そしてレンとレイはスクール水着だったのだが・・・

「おいレイ」

「何よご主人様。着替えてきたんだし文句は無いんでしょ・・・って止めなさいよレン。人を子ども扱いしないで」

すっかりむくれるレイをレンがいい子いい子する様に宥める。

「いや、文句じゃなくてな・・・色逆じゃないのか?」

士郎の言うとおりレイは黒の、レンは白と、互いのイメージカラーと真逆の色の水着を着ていた。

「ああこれ?たまには色の交換してみないってレンに持ちかけたのよ。そうしたら二つ返事で了承してくれた訳」

「なるほどな・・・まあそれくらいは別にいいがそれよりもあんな危険物、何処から持ち込んできた?」

苦りきった声で質問する。

「持ち込んだもなにも」

「コーバックに貰ったのよ。『機会があったら着て見てくれや』って言って」

「・・・(こくん)」

「教授かーーーーー!」

「あんたが犯人かーーーーーー!!」

志貴と士郎の怒りの咆哮が木霊し、次の瞬間二人は同時に姿を消していた。

そうして個人的に犯人に制裁を加え終え、ようやく一同がプールサイドに集まった。

「さてと・・・色々あったが始めるとするか・・・」

始める前から少しげんなりした声で志貴が告げる。

「そうだな。じゃあ始めるか・・・休暇を!」

『おーーーーーーっ!!』

気を取り直した士郎の一声とそれに追従する賛同の声でわくわくざぶーんの休暇はようやく幕を開けたのだった。

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